ボリビア 熱帯の人々の生活

人々の生活、と一言で言っても、日本の数倍も国土のある国のことであり、また気候的も地形的にもアンデスの高山地帯から熱帯のアマゾンまで変化のある国のこと、一言で語ることはできません。今回紹介するのは、前回少し書いたルレナバケという町の周辺のことです。実際には数日間しか滞在していませんから、ほんの表面的なところを見ただけで、かなり思い込みが入っている可能性があることもご了承ください。

まず前回も少し書きましたが、この地域には、町などを除くと二つのグループの人たちが住んでいます。

一つははるか以前、アンデスにインカ文明が栄えていたころには既にこの地域にいた先住民の人たちです。この人たちはインカ文明とも接触があったことが考古学的資料からわかっているようですが、その後侵入してきたスペイン人はジャングルにはあまり興味を持たなかったのか、植民化にはそれほど影響を受けずに近年まで自分たちの文化や生活を保ち続けてきたようです。

この人たちのグループの中にも生活のしかたは現在ではいろいろあるようで、ジャングルの中で昔ながらの狩猟採取を中心とした生活を続けているグループがいる一方、大部分の人たちは定住と農耕化の道を歩んでいるようです。ILOが出した勧告により各国では先住民の権利の保護が行われていますが(日本では行われていないようですが…)、ボリビアでは大面積の先住民共有地のようなものが設定され、特にルレナバケの周辺ではそれが国立公園のエリアと重なって存在しています。この共有地では、先住民以外の人による開発はほとんど禁止されています。

生活形態は変わってきているとは言っても、先住民の人たちの知恵は凄いものがあります。特に動植物の利用に関しての知識は驚くほど豊富で、エコ・ツーリズムのガイドさんなどは「この植物は何に効く」「このきのこは食べられる」などなど、いろいろと教えてくれました。働かない猟犬を罰するのにアリを使う、なんていう知恵は、外部の人間にはわかりようもないことでしょう。また伝統的な家屋はヤシの葉を編んで屋根を葺くのですが、この屋根は熱帯の高温多湿の気候下でも25年ももち、また火にも強いそうです。

先住民の人たちは、この地域の自然との共存方法を良く知っており、環境を維持しながら生活してきた人たちだと言えると思います。

ボリビア 入植地の様子

一方この地域の道路際などの開拓地にいるのは内国移住者(コロニサドーレス)と呼ばれる人たちです。左の写真の両側に開拓地があるのですが、一軒あたり25ヘクタールもありますから、一見良くわからないところも多いです。ボリビアではアルティ・プラノ(標高の高い平原地域)などでは生産性が低い割に人口密度が高く、高地の住民が平地に移住する、ということがよく行われています。この地域に多いのは、かつて銀山で有名だったポトシ周辺からの移住者です。鉱山が斜陽化したときにリストラに遭い、政府の方針でこの地域に移住させられたり、また自主的に移住してきた人たちがほとんどです。民族的には高地のインディオか多少の混血(メスティーソ)に属する人たちのようです。

この人たちは高地の出身ですからアマゾン平原の生活にうまく適応できておらず、熱帯での農耕も初めてというところからスタートしていますから、とても大変だったようです。土地の使い方も先住民の人ほどうまくなく、粗放な焼畑を行うしかなかったため、ある土地を焼いては次へ移る、という形で、先住民の土地や国立公園などをも脅かしているようです。

ボリビア 地域の作物

熱帯の土地は一般的に痩せており、持続的な利用はなかなか難しいのですが、それでもこの地域では数多くの根菜類やバナナ、果実やコメなどが収穫され、また牧畜も盛んに行われています。

その種類だけ見るととても豊かなようにも見えるのですが、村の人たちに聞いてみると奥の畑から作物を持ち出す手段がなくて腐らせるしかない、また持ち出せたとしてもこの地区から外へ出る道路状況が悪いために、市場がなく、したがって価格が非常に安い、とのことでした。

またアマゾン地域ではかなり広く見られる牛やロバを使役に使う、という習慣も持っておらず、そのために畑から自分で担いで作物を出してくるために、非常に苦労しているようです。またそうした習慣がないためにいきなり「車道がほしい」というところへ発想が飛んでしまうようです。道の補修などの手間やコストを考えたら動物を使うほうがよほど持続性があると思うのですが。

ボリビア 開発ワーカー

ひとつ驚いたのは、この地域の人たちが非常によく組織化されていることです。自分たちで開発センターみたいなものを持っているケースもあります。

ボリビアはチェ・ゲバラの活躍があったことでもわかるように、以前から左翼的な労働運動の盛んな国です。どうやらこの人たちもかつて鉱山労働者だったころに、そうした組合活動の経験を持っているようです。そのために組織化がうまいし結束が固い、と聞きましたが、真偽のほどはわかりません。(写真左側にいるのが開発センターの人たち)

ボリビア 集会に来た男たち

しかしやはり、というか、会議をやっても男性ばかり発言して、女性はまったく発言しません。

一般的にラテンアメリカは「マチスモ」と言われる男性優位が強い地域ですが、これはどうやらインディオの場合も同様のようです。女性のニーズを聞き出すために、僕はこっそり女性のワーカーに頼んで紙に一覧を書いてもらいました。

また会議の最後に「女性の発言が聞きたい」と言って、やっと一人の女性が発言してくれましたが、女性の発言は、男性が会議で言っているものとはやはり視点を異にするものでした。